ギター

中学生の頃、3DSで聴いていたRADWIMPSは本当格好よくて、俺も楽器やってみたいなあって思った。昔使っていたという、物置部屋から父が引っ張り出してきてくれたグレコレスポールは、思っていたよりも重かった。初めてギターを持った時のあの根拠のない全能感は、今どのくらい残っているだろう。

初めてギターを持った時には同時に、向いてないという直感もあって、それは正しかった。最初の状態からまるで上達しなかった。でも、手を振ると音が出るということは単純に面白かった。

高校では軽音部に入った。入学する前からそのつもりだった。バンドがやってみたかった。入部したての頃は、右も左も分からない人ばかりなのをいいことに分不相応に経験者面してイキり散らしてしまったけど、ある程度受け入れてもらえたのか、一応そこで一定の居場所を確保できたと思う。同じ学年の同性なら話せるくらいには。

あぶれることなく無事にバンドが組めた。ドラム以外の3人はみんなボーカルをやりたがってたんだけど、とりあえず最初のライブでは俺がメインでボーカルをやることになった。公共施設でちゃんとしたスタジオがタダ同然で借りられるので、もっぱらそこで練習していた。でかいアンプででかい音を出し、その音がバンドで重なる、合わさる、というのはいくら自分が下手くそでも単純に楽しかった。スタジオの中にいる時間は楽しかったな。

ストラップを留めるゴムとかを買ってなかったので、しょっちゅう外れて何度も思いっきり床に落としてた。夏休みのいつだか、スタンドに置いたままパタンと倒れたとき、ネックのとこが木の色になってて、こんな色だったっけと思ってよく見ると折れていた。ストラップ留めるやつはマジで必須。ギター始めてすぐに買うべき。

親は「そうか」といった感じで、特に何も言わないでくれた。ネックの修理にどれくらいかかるのか調べたら、このギターを買ったという値段とどっこいくらいだったので、新しく買ってもらえることになった。ネットサーフィンの内容に音楽やギター関連のことが増えたから、ギターの種類とかに関する表面的な知識は聞きかじっていて、そのときやけにジャズマスターが欲しいと思った。見た目がかっこいいから。いろいろと曲者らしいという情報も気持ちを後押しした。

レスポールが折れた数日後に、ちょっとでかい某村楽器に連れてってもらった。ほんとはそこで買ってもらおうとしたんだけど、店員とまともに喋れなくて、だんだんあっちも小馬鹿にしてきたので、もうダメなあれになってしまって、かっこよくて値段もそこまでしないジャズマスターはあったんだけど、結局何も買わずに帰った。これだけが理由じゃないけど、未だに楽器屋に対する苦手意識は強い。

それからもうすっかり拗ねてしまっていたんだけど、そのまた何日か後に半ば無理やり連れてかれたイオンで、そこに一本だけあったジャズマスターを買ってもらった。ぶっちゃけ、まあまあするやつだった。親にはとても感謝しているけど、それと同じかそれ以上に申し訳なく思っている。

その年の文化祭で初めてライブをした。メンバーに陽キャが居たので結構な人が見に来てくれた。気持ちよかった。後で動画を見て気づいたんだけど、二本あるうちの俺のギターの音量がやけに小さくなっていて、ほとんど聞こえなかったみたい。せっかく買ってもらったのに。今でもちょっと悔しい。でも、初めてのライブにしてはある程度ハッタリを効かせることはできたと思う。下手くそなりに歌もギターも堂々したつもりだ。間奏で前に出てアピールをしたら歓声が湧いた。そんなの初めてだった。

ステージの上では、自分が世界で一番かっこいいと思うようにしている。その方がきっと良いライブになると思うし、わざとだってそんな風に思える気持ちいい瞬間なんてなかなかない。まだ部活でライブをする機会は二回ある。それ以降何かやるかはわからないけど、向いてないなりに出来るだけのことをやりたい。