豊かさ

高一の時の担任の先生にはすごくお世話になった。彼は数学の先生だったんだけど、忙しいのに僕が留年しそうだったときに個別に補習をしてもらったりして気にかけてくれた。二年生の成績を順当につければもう一つ単位を落として留年していたと思うから、最終的には情けをかけてもらったんだろう。

先生は、貴重で豊かなことだから勉強だけじゃなくて学校行事や部活も手を抜くなといった具合のことをよく言っていた。あいにく僕はいわゆる青春といったものから距離のある所にいる人間なので、好きなことをやれている部活はともかく、大抵の行事には乗り切れない。むしろ、特に中学以前では、輪の外で悪態をついているようなことが多かったな。

行事や部活に熱心に取り組むことはもちろん豊かな営みだけど、先生が言う豊かさの範疇はそれだけじゃない。ホームルームではそういうことについて話すことが多かったけど、面談や補習のときや個人的に話しているときには、趣味を持つことや文化に触れることを豊かだと言う方が多かった。僕はこっちの豊かさを大事にしたいと思っている。

映画だって音楽だって、アニメや漫画、ゲームにしたって、何もないところから生まれてきたわけじゃなくて、歴史や経験の蓄積の上に結実したものだ。そういうものを観たり聴いたりするのは、誰かがずっと育ててきた木の果実を貰って味わうような、すごく贅沢なことだと思う。

何もかもつまらないと感じられたり、どうしてもくだらないとしか思えないものばかりが目に入ったりもするけれど、幸い何かを探す手段には困らない時代だ、自分が価値を見出せるものをたくさん見つけて面白がって、豊かに生きていきたい。