散歩

小さい頃、すり切れるくらい何度も『となりのトトロ』を観ていた。しばらく前に、懐かしいなあと思って改めて観てみると、植物や虫などの自然のようすが、すごく丁寧に描かれていることに気がついた。

‪たとえば木が、背景を飾るだけの単なる記号的な「木」としてではなく、確かにそこにあるものとして注意深く捉えられていること。メイが初めてトトロに出会う大きなクスノキはもちろん、森の中のすべてが、繊細な感覚で、あくまで具体的に描かれている。

普段生活していても、多少は自然に触れることがあるけど、僕はそれまで気にも留めていなかった。道端に花が見えても、不要な情報として切り捨てるか、あるいはただ「花がある」などという単純な情報に圧縮してしまっていた。

『トトロ』を久しぶりに観て、自然に対する見方が変わった。いまそのとき、その場所で感じるものを、そのまま感じるということが、面白いと思えるようになった。

 

最近、よく散歩をしている。住んでいる街も、通っている高校のあたりも、都会とも田舎ともつかない微妙な具合の場所で、生活に不便なことは一切ないが、取り立てて何かあるわけでもない。なんとも中途半端だが、これがいいのだ。

駅からちょっと離れて小さな道に入っていくと、すぐに車通りが減って、かわりに木が増えていく。どこへ行くでもなく、気の赴くままに歩いていく。公園や緑地に入って土を踏んでみる。短い橋の下にある、小川の流れをさかのぼってみる。鳥や虫がめいめいに鳴いて生まれる、不思議なリズムを追いかけてみる。

出不精だからいつも家に引きこもっているんだけど、何もせずそうしていると、だんだん気が滅入ってくる。散歩はそういう気分をすぐに吹き飛ばして、落ち着いた、爽やかな気持ちにしてくれる。

 

今はほとんどリフレッシュ目的だけで散歩をしてるんだけど、趣味としてもなかなかいいものだと思う。植物についての知識があったりしたら、きっともっと楽しいだろう。目や耳に入るものを楽しむということは覚え始めたけど、結局どんな花も「花」としか認識できないのはもったいない。今はスマホとネットというすごく便利なものがあるし、気になったらその場で調べて、同定しようとしてみてもいいかもしれない。でもやっぱり、道端でしゃがみこんでずっとスマホいじってたら変かなあ。